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心に残る名文

第12回 いろは和歌【ほ】 伏見院「星清き」『玉葉和歌集』より

2017-02-27
 いろは和歌シリーズ、今回は「ほ」で始まる和歌を紹介します。
 

  冬御歌の中に、雪を         院御製
ほしきようすゆき空晴れて吹きとほす風をこずゑにぞ聞く
(小学館『新編日本古典文学全集49 中世和歌集』)

 
 星の清らかな夜半、薄雪が降った空はすぐ晴れて、木々の間を吹き通す風を梢に聞くことだ
 
 「院御製」とありますが、作者はふしいん。生没年はぶんえい二(1265)年~ぶんぽう元(1317)年、第92代の天皇です。
 このころは、天皇家がみょういん統とだいかく統という二つの系統に分かれていた時代(伏見院は持明院統)。鎌倉幕府との関係も複雑になり、武家と天皇家が入りまじった権力争いが繰り広げられていました。
 
 そんな中、和歌の世界にもいくつかの流派が生まれていました。その中の一つに「きょうごく派」という流派があり、伏見天皇は京極派の代表的な歌人でした。
 京極派の和歌の特色として、自然の情景を正確に描き出そうとする叙景歌の存在が挙げられます。
 
 今回紹介する和歌はどうでしょう。
 冬のきりりと冷たい夜半の空気の中、空には星が清らかに瞬いている。雪は重たく積もるほどではなくさらりと降って、木々の間を吹き抜けてくる冷たい風が梢を揺らしている。清浄で鮮やかな情景が浮かびます。感傷的な雰囲気はなく、緊張感がある印象を受けます。
 まだまだ寒い今日このごろ、春を待ち遠しく思いながらも、この和歌がもつきりっとした空気に触れると、冬が去ってゆくのが少し名残惜しいような気持ちになります。
福井
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